MBO実施までのスケジュールの重要性~各段階での注意点~

目次

はじめに

企業の独立性を守り、経営の安定を図る手段として注目されるMBO(マネジメント・バイアウト)。しかし、単にスケジュールを策定するだけでは不十分です。何よりも重要なのは、会社のビジョンや経営戦略を実現するために、MBOという資本政策が具体的な経営計画の中で適切に位置づけられることです。これを出発点とすることで、MBOが単なる資本政策の一環ではなく、企業の持続可能な成長を支える戦略的手段として機能するようになります。

MBOスケジュール策定の重要性

MBOスケジュールを策定する際には、企業の中長期のビジョンと経営計画の整合性を重視します。MBOはあくまで経営戦略を実現する手段であり、その成功には明確な目的と適切な資本政策が不可欠です。MBOは、経営陣や幹部が企業の株式を取得することで経営権を確保し、会社の独立性や持続可能な成長を目指す手法です。

中小企業では、親族内に後継者がいない場合にMBOが選ばれるケースが増えていますが、MBOの実行には資金調達や関係者との調整が不可欠です。よって、MBOの実行を見据えた場合には早くから周到なスケジュールが求められます。

MBOスケジュールの全体像

何よりもまず、経営の中長期的な目標を設定し、その実現にMBOがどのように寄与するかを明確にします。そのうえで、MBOを実行する際のスケジュールは、通常以下のような段階を経て策定されます。

  1. 事前準備・計画段階
    MBOのスケジュール策定において最初に重要なのが、事前準備と計画段階です。現状の事業価値の評価、MBOの目的の明確化、そしてスケジュール全体の草案作成などが行われます。また、資金調達や株式移転方法についての計画も立てる必要があります。この段階では、外部の専門家や金融機関と協力し、企業評価や資本政策の基本方針を確定させることが求められます。どういう形で成長していくかという事業計画の作成が重要です。

  2. デューデリジェンス(DD)と資金調達の確保
    MBOの実行に向けた具体的なプロセスとして、デューデリジェンスと資金調達の確保が行われます。対象企業の財務状況、リスク要因、法務面の確認など、買収を行う上での課題やリスクを精査し、必要な資金調達手段について銀行や投資家との交渉を進め、資金の準備を整えます。

  3. 契約と法的手続きの準備
    MBOの実行に向けて、契約および法的手続きを進める段階です。株式譲渡契約や、特別目的会社(SPC)設立に関する契約が締結されます。また、取引先や従業員、株主など、関係者に対してMBOに関する説明と合意を得るプロセスも含まれます。MBOが経営権や株式の移転を伴うため、これらの法的な手続きや社内外の合意形成が重要です。

  4. MBOの実行・経営体制の再構築
    契約と手続きが完了後、MBOの実行フェーズに入ります。買収した株式の所有権が経営陣に移行し、経営体制の再構築や、新たなガバナンス体制の導入などが進められます。特に、従業員持株会や外部協力者との連携を図ることで、経営の安定化とモチベーションの向上を図ります。

各段階でのポイントと注意点

MBOのスケジュール策定には、各段階でのポイントと注意点があります。これらの要素に適切に対応することで、MBOのリスクを最小限に抑え、成功に向けた基盤を築くことが可能です。

  1. 事前準備段階でのポイント:企業評価と資本政策の検討
    MBOを進めるためには、対象企業の正確な評価が重要です。企業の財務状況や市場価値を適切に把握し、それに基づく資本政策を策定します。また、資金調達に向け外部の専門家や金融機関との連携が欠かせません。綿密な事業計画により、キャッシュフローを毎年どれくらい積み上げられるかを見積もります。

  2. デューデリジェンスと資金調達段階での注意点:リスク管理
    デューデリジェンスでは、財務・法務・事業面のリスクを徹底的に洗い出し、MBO後に発生する可能性のある問題を把握します。資金調達についても、融資や出資など複数の手段を検討し、企業の収益から返済が可能か慎重に判断することが大切ですし、収益性や今後の成長戦略を適切に提示し、長期的な信頼関係を築くことが重要です。

  3. 法的手続きと契約段階での重要事項:関係者の同意
    MBOは企業の経営権や所有権に直接関わるため、従業員や取引先などの関係者からの理解を得ることが不可欠です。特に、MBOにより経営体制が変更される場合は、従業員や取引先の不安を軽減するための説明が必要です。契約内容についても、弁護士や専門家の助言を受け、法的に問題がないように進めることが求められます。

  4.  MBO実行と経営再構築段階の注意点:経営安定化と組織の一体化
    MBO後は、新しい経営体制を安定させるために、経営戦略の再策定や組織の一体化が求められます。従業員や取引先に対しても、新体制のメリットや方針を伝えることで、信頼を得ることが重要です。また、従業員持株会などを活用し、経営陣と従業員が一体となって企業の目標に向かう環境を整えることが、長期的な経営安定に繋がります。

MBOのスケジュールにおけるリスク管理と成功の鍵

MBOの成功には、周到なスケジュール管理とリスクの適切な把握が不可欠です。特に、資金調達の失敗や関係者の不安感を取り除くための透明性の高い対応が求められます。

  • 資金調達のリスク
    MBOでは、多額の資金調達が必要となるケースが多いため、借入条件や返済計画について現実的なシミュレーションが必要です。資金の確保ができなければ、MBOの計画が進まないため、事前に銀行や投資家との交渉を行い、十分な資金調達体制を整えます。
  • ガバナンスの強化
    MBO後の新経営体制では、ガバナンスの強化が求められます。MBOにより経営者が株式を所有する形となるため、外部からの監視が弱まる可能性があります。従業員持株会や社外取締役の導入など、客観的な監視体制を構築し、適切な経営が継続されるようにすることが重要です。
  • 従業員や取引先への説明と関係構築
    MBOによって経営体制が変わることに対し、従業員や取引先が不安を感じないように、MBOの目的や新体制の方向性について丁寧な説明が必要です。信頼関係を築くためにも、説明会等を通じて情報を共有し、相互理解を深める努力が重要です。

まとめ

MBOは、企業の独立性を守り、経営陣が自らの責任で経営を引き継ぐための重要な手法です。しかし、MBOを成功させるためには、長期的な視点でのスケジュール策定が欠かせません。事前準備からデューデリジェンス、法的手続き、そしてMBOの実行と再構築まで、一つひとつのステップを慎重に進めることで、リスクを抑えた成功が見込めます。

資金調達やガバナンスの強化、そして関係者への適切な説明と理解を得ることが、MBOの安定した実行と成功を導く鍵となります。

この記事を書いた人

大学卒業後、日本生命保険にて中小企業向けの生命保険販売に従事し、エリアNo1の実績を残す。その際の日々の仕事で感じていた「中小企業の事業承継課題」の解決に向けストライクへ参画。以降、後継者不在でお困りの中小企業経営者のM&A支援を中心に、5年間で15件のM&Aを支援。親族内承継、従業員承継、第3者承継、それぞれの考え方や手法を活かす最適な事業承継を支援。

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