はじめに
MEBO(Management and Employee Buy-Out)とは経営陣と従業員が共同で株式を買い取ることを指します。本記事では、MEBOの一般的なメリット、デメリットを解説しつつ、日本国内のMEBO実施事例として株式会社日本レーザーのMEBOにおけるプロセスや成果について説明します。
MEBOのメリット
MEBOは、従業員が企業のオーナーシップを持つことで、経営への参画を促し、企業全体の成長意欲を高める画期的な手法です。単なる企業の売買にとどまらず、従業員一人ひとりが企業の未来を担うという、より深いレベルでのエンゲージメントを生み出すことが可能です。MEBOが注目される理由は、企業の成長に繋がる以下のメリットがあるためです。
経営の自由度の拡大
親会社や外部の大株主から独立することで、経営の自由度が高まり、迅速な意思決定が可能になります。
従業員のモチベーション向上
従業員が株主となるため、企業の成長に対する責任感とモチベーションが向上します。
ガバナンスの強化
経営陣と従業員が共同で経営権を持つため、透明性の高い経営が実現し、ガバナンスが強化されます。
持続可能な成長
親会社や個人大株主、ファンドが入っていない独立した経営が可能となり、持続可能な成長を実現します。
MEBOのデメリット
一方で、メリットだけではなく、様々な課題、デメリットも存在します。メリットとデメリットを見比べながら、自社に最適な手法を検討しましょう。
資金調達の難しさ
経営陣と従業員が自己資金を出資する必要があるため、資金調達が難しい場合があります。特に、企業の規模が大きい場合や、経営状況が厳しい場合には、資金調達が一層困難になります。
リスクの共有
経営陣と従業員が共同でリスクを負うため、企業の業績が悪化した場合には、個人の経済的リスクも大きくなります。これにより、従業員の生活に直接的な影響を及ぼす可能性があります。
経営の複雑化
経営陣と従業員が共同で経営権を持つことで、意思決定プロセスが複雑化する場合があります。特に、経営方針や戦略に関する意見の相違が生じた場合には、煩雑な状態に陥りやすくなります。
MEBO事例:株式会社日本レーザー
株式会社日本レーザーとは
株式会社日本レーザーは、レーザーおよび光学機器の輸入販売を専門とする商社です。1968年に設立され、1971年に日本電子株式会社の子会社となりましたが、2007年にMEBOを実施し、親会社から独立しました。
MEBOの実施の背景
バブル崩壊後、経営危機に陥った日本レーザーは、親会社から派遣された現会長が、再建に取り組むこととなりました。しかし、長らく親会社主導の体制が続いた結果、社員のキャリアパスは親会社出身者に大きく左右され、経営に参画する機会は限られていました。多くの社員は、その状況にモチベーションが低下し、会社に対する愛着も薄れていたと言えます。そこで、現会長は、業績回復とともに、社員のモチベーションを向上させ、会社を活性化させる「モチベーション経営」を重視しました。そして、黒字転換を果たした後も、この考え方を貫き、2007年に経営陣と従業員が共同で会社を買い取るMEBOを実施。これにより、社員が経営の主体となり、会社に対する愛着と責任感が高まりました。
実施内容
- ホールディングス体制の構築
JLCホールディングス株式会社を設立し、MEBOを実施するためのホールディングス体制を整えました。 - 資金調達
金融機関からの借入を活用し、ファイナンス型MEBOスキームを実現。これにより、投資ファンドやベンチャーキャピタルを利用せずに、資金調達を行いました。 - 全社員が株主
全社員が株主となる仕組みを構築し、パート社員や派遣社員も株主になれるようにしました。現在の株主構成は、JICホールディングス株式会社が100%保有しています。
MEBOを実践した株式会社日本レーザーの成果
経営の安定
ファンドが入っていないMEBOスキームのため、将来売却される心配もなく、経営が安定しました。かつては債務超過の赤字体質でしたが、社員全員が経営に参加する文化を構築することによって、2012年に銀行借入を完済し、無借金経営を実現しております。
人事評価の透明性の担保
日本レーザーの社員としてのクレド(企業全体の従業員が心がける信条や行動指針)に従って、絶対評価を採用しています。会社の業績向上は、個人の資産価値向上に直結する為、社員は「自分たちの会社を成長させたい」という強い当事者意識を持つことができ、企業全体の活性化に繋がっています。
働く環境の整備や女性の活躍
MEBOを行ったあとの離職者はゼロに近く、定年退職後の再雇用も行っております。女性の管理職も3割を占めており、様々な社員が活躍できる環境となっております。
さいごに
日本レーザーのMEBOは、経営危機というピンチを、社員一人ひとりが会社の成長に責任を持つという強い当事者意識を生み出す絶好の機会に変えました。全社員が株主となることで、企業の透明性が高まり、持続可能な成長軌道に乗せることに成功しました。
この成功の背景には、企業の存在意義を再確認し、社員とその家族の幸福を追求するという、揺るぎない経営理念があったと言えるでしょう。事業承継を検討されている企業の方々にとって、日本レーザーの事例は、単なる企業買収ではなく、社員のモチベーションを最大限に引き出し、企業の持続的な成長を実現するための新たな可能性を示唆していると言えるのではないでしょうか。
参考文献