はじめに
企業の命脈を未来へと繋ぐためには、経営者の世代交代が不可欠です。
後継者問題に適切に対処することで、企業は新たな成長ステージへと進むことができます。本記事では、親族、従業員、そして第三者といった、3つの承継先それぞれの特徴と、メリット・デメリットをお伝えします。後継者問題の解決に、最適な後継者選びのご参考になれば幸いです。
事業承継の3類型
事業承継は、大きく分けて『親族内承継』『従業員承継』『第三者承継』の3つの類型に分けられます。それぞれにメリット・デメリットがあり、企業の状況や経営者の考え方によって最適な選択は異なります。
親族内承継
現経営者の子などの親族に承継することを指します。
親族内承継は、日本の伝統的価値観である家督を継ぐという形に近いため、社内的にも対外的にもハードルが低いものとして捉えられてきました。心情面にも配慮した長期の準備期間確保がしやすい、相続等による財産・株式の後継者移転が可能といった背景から所有と経営の一体的な承継が期待できる方法として、長らく事業承継で最も多い選択肢として選ばれてきました。
親族内承継のメリット
- 信頼関係の構築
親族間での信頼関係が既に構築されている場合、スムーズな引き継ぎが可能です。これにより、経営の一貫性が保たれやすくなります。 - 長期的な育成
早い段階から後継者として位置づけ、長期間にわたって育成することができ、後継者が経営者としてのスキルや知識を十分に身につけることができます。 - 所有と経営の一体化
親族内承継では、所有と経営が一体化しやすく、経営の安定性が高まります。相続による財産や株式の移転も可能となるため、経営権の移行が円滑に進みます。 - 企業文化の継承
家族経営として企業の伝統や価値観を次世代に引き継ぐことで、ブランドの一貫性を保つことができます。結果的に、企業のアイデンティティが維持されやすくなります。 - 従業員の安心感 従業員や関係者からの理解を得やすく、全く知らない第三者に比べて信頼関係を構築するまでの時間が短縮されます。従業員の安心感の向上や業務の継続性が保持されるなどの効果が見込めます。
親族内承継のデメリット
- 後継者の適性問題
親族内で適任者がいない場合、能力や意欲が不足している後継者を選ぶことで経営が悪化するリスクがあります。 - 親族間のトラブル
経営と関係ないところの親族間での意見の相違や対立により、経営の意思決定に影響することがあります。 - 外部からの評価
親族内承継をするだけでは、外部からの評価が低くなることがあります。企業の信頼性やブランドイメージの向上のためには承継者の教育や支える経営チームの育成に留意が必要です。 - 税務上の課題
親族内承継では、相続税や贈与税の負担が大きくなることがあるため適切な対処が必要です。 - 経営の硬直化
親族内承継では、経営方針や戦略が保守的になりがちです。これにより、企業のイノベーションが停滞する可能性があります。
役職員・従業員承継
「親族以外」の従業員に経営を承継させるのが従業員承継です。長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性も期待することができます。
従来より、事業承継の中で親族内承継の割合が最も多かったのですが、2023年における帝国データバンクの就任経緯別事業承継動向においては、内部昇格が35.5%と、親族内承継を抜いて初のトップとなり、従業員承継が増加している状況が見て取れます。
失われた30年間の中で、経営の難易度は間違いなく上がっています。親族だけでなく社内の経験値の高い人間も後継者候補の選択肢に入れることを検討すべきと考えられます。
役職員・従業員承継のメリット
- 経営方針の一貫性
長期間働いてきた従業員であれば、企業の経営方針や文化を理解しているため、経営の一貫性が保たれやすくなります。 - モチベーションの向上
従業員が後継者に選ばれることで、社内のモチベーションが向上し、従業員の忠誠心が高まります。これにより、企業全体の生産性が向上する可能性があります。 - 企業価値の向上
親族にこだわらずに優秀な人材に承継させた結果としての従業員承継であれば、企業成長につながるとともに、外部からの評価が高くなることにつながります。 - スムーズな引き継ぎ
従業員は既に企業の業務プロセスや顧客関係を理解しているため、スムーズな引き継ぎが可能です。これにより、業務の中断や混乱を最小限に抑えることができます。 - コストの削減
外部からの人材を採用するコストや時間を削減することができます。これにより、経営資源を効率的に活用することができます。
役職員・従業員承継のデメリット
- 後継者の育成コスト
従業員を後継者として育成するためには、時間とコストがかかります。特に、経営スキルやリーダーシップを身につけるための教育が必要です。 - 内部競争の激化
従業員の中から後継者を選ぶ際に、内部競争が激化することがあり、社内の人間関係が悪化するリスクがあります。 - 経営の不安定化
従業員が経営者としての適性を持っていない場合、経営が不安定になるリスクがあります。特に、経営経験が不足している場合、企業の成長が停滞する可能性があります。
第三者承継(M&A)
親族内承継も従業員承継も行わない場合の事業承継として、社外の第三者(企業や創業希望者等)へ株式譲渡や事業譲渡により承継する方法です。
親族や社内に適任者がいない場合でも広く候補者を求めることができることが最大のメリットであり、現経営者が会社売却により経済的利益を得ることができるのも大きな特徴と考えられます。
第三者承継のメリット
- 広範な候補者の選定
親族や社内に適任者がいない場合でも、広く候補者を求めることができます。これにより、最適な後継者を見つける可能性が高まります。 - 経済的利益の獲得
現経営者が会社売却により経済的利益を得ることができるため、経営者の引退後の生活資金を確保することができます。 - 企業の成長促進
新しい経営者が企業に新しい視点や戦略を持ち込み、企業の成長を促進する可能性があります。特に、大企業や投資ファンドが後継者となる場合、経営資源やノウハウが豊富であるため、企業の成長機会が多様化します。 - 市場価値の向上
M&Aによるシナジー効果が期待できる場合、企業の競争力が強化されます。
第三者承継のデメリット
- 企業文化の変化
新しい経営者が企業文化を理解していない場合、企業文化が変化し、従業員のモチベーションが低下するリスクがあります。 - 従業員の不安
従業員が将来に対して不安を感じることがあります。特に、リストラや業務内容の変更が予想される場合、従業員の不安が高まります。 - 取引先の不安
新しい経営者が取引先との関係をうまく引き継げない場合、取引先が不安を感じ、取引が減少するリスクがあります。 - コストの増加
M&Aやその後の統合手続き等の業務が集中して大きな負荷がかかります。これにより、経営資源が一時的に圧迫される可能性があります。 - 経営の不安定化
新しい経営者が企業の業務プロセスや市場環境を理解していない場合、経営が不安定になるリスクがあります。特に、短期間での経営戦略の変更が行われる場合、企業の成長が停滞する可能性があります。
さいごに
事業承継は、企業の未来を左右する重要な決断です。それぞれの承継類型には、メリットとデメリットが必ず存在します。今一度、ご自身の企業の状況を見直し、最適な後継者を選び、未来への道を切り開きましょう。