マクロの視点から見た中小企業の事業承継問題

目次

はじめに

日本の中小企業は地域経済を支える屋台骨ですが、経営者の高齢化と人口減少により、後継者不足が深刻化しています。これにより、円滑な事業承継が進まず、地域の経済活動や雇用が危機にさらされる可能性があります。本記事では、事業承継問題の背景とそれが地域社会、日本経済全体に与える影響について掘り下げ、今後の取り組みの重要性を解説します。

事業承継問題が深刻化する背景

現在、日本の中小企業の多くが、経営者の高齢化に伴い事業承継の岐路に立っています。経済産業省や民間の調査でも、特に60歳以上の経営者が後継者を見つけられずにいるケースが増えていると報告されています。2023年時点で、中小企業の経営者の約65%が60歳以上であり、10年前と比較してもこの割合は増加傾向にあります。さらに、70歳以上の経営者の中には、承継計画がなく、廃業を検討せざるを得ない企業も少なくありません。

後継者不足の背景には、以下のような要因があると考えられています。

少子高齢化による人口減少

少子化に伴い、企業の経営を引き継ぐ世代が少なくなっています。また、都市への人口流出も進んでおり、特に地方の中小企業にとっては後継者を確保するのが一層難しくなっています。地方から都市部に若年層が流出することで、地方企業の事業承継問題はますます深刻化しているのです。

親族内承継の減少

従来、日本では親族内承継が一般的でしたが、最近では子どもが他の業界でキャリアを築いているケースも増え、親族内での承継が難しくなっています。親族での承継が望めない場合、社内外から後継者を見つける必要がありますが、それにも多くの時間とコストがかかります。

地域社会や日本経済に与える影響

事業承継問題が深刻化する中で、影響は地域経済や日本全体に波及しています。中小企業が事業承継できずに廃業すれば、地域の経済活動が減少し、雇用機会も失われてしまいます。

地域経済の停滞

中小企業が廃業すると、地域における生産活動や消費活動が減少します。製造業や小売業が地域に与える経済的な影響は大きく、地域住民の所得が減ると、消費も低下します。こうした流れが続けば、地域経済全体が停滞し、地方の活力が失われることが懸念されています。経済産業省 の調査では、後継者がいれば存続できた企業の約3割が、後継者不足により廃業を選んでいるとされています。

雇用機会の喪失と人口流出の加速

中小企業の廃業は、地域の雇用にも悪影響を及ぼします。企業がなくなることで地元の若者が働く場所が減少し、結果として都市部への人口流出がさらに加速するのです。総務省の人口移動統計でも、地方から都市への人口流出が続いていると報告されており、地方の労働力不足が深刻化しています。雇用機会が失われることで、地域の人口減少に歯止めがかからないのが現状です。

地域資源と伝統文化の喪失

地域に根付いた中小企業が持つ技術や伝統が失われると、その地域特有の産業や文化も消えてしまう可能性があります。例えば、地方の伝統産業や特産品を生み出す中小企業が廃業すれば、観光業にも影響を与え、地域のブランド価値が低下する恐れもあります。このように、企業の廃業は単に一企業の問題にとどまらず、地域全体のアイデンティティの喪失に繋がりかねません。

日本経済全体への影響

中小企業の事業/継がうまく進まないことで、日本経済全体にも悪影響が出る可能性があります。特に、経済成長や労働市場、国全体の競争力に対する影響が懸念されています。

経済成長率の低下

中小企業の廃業が続けば、日本全体の経済成長にも影響を与えます。経済産業省の試算では、後継者がいれば存続できる中小企業の廃業によって、年間で約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性があるとされています。これは、日本のGDPの約4%に相当し、廃業の増加は日本全体の経済成長を抑制する大きな要因となり得るのです。

労働市場の収縮

事業承継が進まないと、特に地方での雇用機会が減少し、労働市場も縮小してしまいます。これは、少子高齢化に伴う労働力不足をさらに深刻化させ、日本の労働市場全体に悪影響を与える恐れがあります。労働力供給が減少することで、企業の成長を支える人材が不足し、全体的な経済活動にも影響が出ます。

技術やノウハウの消失と競争力の低下

グローバル競争が激化する中で、特に中小企業が持つ独自の技術やノウハウが失われると、日本全体の競争力が低下する可能性があります。特に、地域に根ざした技術や伝統産業が失われることで、輸出産業や新たな市場の開拓にも支障が生じる恐れがあります。企業の技術力が維持されないと、イノベーションの停滞も懸念され、産業全体の活力が失われかねません。

事業承継問題に対する行政・金融機関の取り組み

事業承継問題に対する取り組みは、日本全体で進められており、政府や金融機関、地域コミュニティなどがさまざまな支援策を提供しています。例えば、政府は中小企業の事業承継を支援するために「事業承継ガイドライン」や税制優遇策を設け、事業承継にかかるコストや税負担を軽減するための措置を整備しています。

また、金融機関も中小企業の事業承継を支える役割を果たしており、事業承継に向けた資金調達支援やM&Aの仲介サービスを提供しています。これにより、企業がスムーズに後継者を見つけ、事業承継を進められるように支援しています。加えて、商工会議所や地方自治体も地域の後継者育成やネットワーク構築に貢献し、地域全体で事業承継を支える動きが広がっています。

まとめ

日本の中小企業が抱える事業承継問題は、単なる企業の存続だけではなく、地域や日本経済全体に波及する大きな課題です。経営者の高齢化が進む一方で、少子高齢化や人口流出により、後継者を見つけるのが難しくなっています。中小企業が廃業することで、地域経済や雇用機会が失われ、日本全体の成長に対しても悪影響を及ぼすリスクが高まっています。

この問題を解決するためには、早期から事業承継を見据えた準備と支援が必要です。地域コミュニティや金融機関、政府の取り組みが一体となり、事業承継を支える仕組みを構築することで、中小企業が未来へとつながる持続可能な経営を実現できるでしょう。

参考文献

この記事を書いた人

大学卒業後、日本生命保険にて中小企業向けの生命保険販売に従事し、エリアNo1の実績を残す。その際の日々の仕事で感じていた「中小企業の事業承継課題」の解決に向けストライクへ参画。以降、後継者不在でお困りの中小企業経営者のM&A支援を中心に、5年間で15件のM&Aを支援。親族内承継、従業員承継、第3者承継、それぞれの考え方や手法を活かす最適な事業承継を支援。

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