資金調達の手法!M&Aファイナンスとは

目次

はじめに

M&Aファイナンスは、企業が他の企業を買収・合併する際に必要な資金を調達するための手法です。M&Aは企業の成長戦略の一環として行われることが多く、その資金調達方法は多岐にわたります。適切なファイナンス手法を選択することで、企業は効率的に資金を調達し、買収・合併の成功を支えることができます。

エクイティファイナンス(株式発行)

エクイティファイナンスの種類

新株発行

公募増資
一般の投資家に対して新株を発行し、広く資金を集める方法です。
第三者割当増資
特定の第三者(例えば、戦略的パートナーや大口投資家)に対して新株を発行する方法です。
株式公開(IPO)
企業が初めて株式を公開市場に上場し、一般投資家から資金を調達する方法です。

エクイティファイナンスのメリット

負債の増加を避ける 
株式発行による資金調達は、借入金のように返済義務がないため、企業の負債比率を増加させません。
財務の健全性向上 
株主資本が増加することで、企業の財務基盤が強化されます。
信用力の向上 
自己資本比率が高まることで、企業の信用力が向上し、将来的な借入がしやすくなります。

エクイティファイナンスのデメリット

既存株主の希薄化 
新株発行により既存株主の持ち株比率が低下し、株主価値が希薄化する可能性があります。
配当負担の増加 
新たな株主に対して配当を支払う必要が生じるため、企業の配当負担が増加します。
経営権の分散 
株式を発行することで、新たな株主が増え、経営権が分散する可能性があります。

エクイティファイナンスのプロセス

  1. 計画立案
    資金調達の目的や必要な資金額を明確にし、最適なエクイティファイナンスの方法を検討します。
  2. 株主総会の承認
    新株発行などの重要事項について、株主総会での承認を得ます。
  3. 証券会社の選定
    公募増資やIPOの場合、証券会社を選定し、引受契約を締結します。
  4. 新株発行手続き
    新株発行に関する法的手続きを行い、証券取引所に上場する場合は上場審査を受けます。
  5. 資金調達
    新株の発行価格を決定し、投資家から資金を調達します。

デットファイナンス

デットファイナンスの種類

銀行借入

短期借入 
一年以内に返済する短期的な資金調達方法です。運転資金や一時的な資金不足を補うために利用されます。
長期借入 
一年以上の返済期間を持つ借入です。設備投資や事業拡大など、長期的な資金需要に対応します。

社債発行

普通社債 
企業が発行する債券で、一定の利息を支払い、満期に元本を返済します。
転換社債(CB) 
債券として発行され、一定の条件で株式に転換できる社債です。 株式に転換されると、負債が資本に変わります。
ワラント債 
新株予約権が付いた社債で、一定の条件で株式を購入する権利が付与されます。

商業手形

企業が発行する短期の約束手形で、通常は90日以内に支払われます。取引先からの支払いを受け取るまでの資金繰りに利用されます。ただし紙の手形は2026年度末までに電子的決済サービスへ移行される予定です。

リースファイナンス

ファイナンスリース
企業が設備や機械をリース会社から借り受け、リース料を支払うことで資金調達を行います。リース期間終了後に設備を購入するオプショ ンが付いていることが多々あります。

デットファイナンスのメリット

資金調達の迅速性 
銀行借入や社債発行は比較的迅速に資金を調達できるため、急な 資金需要に対応しやすいです。
税務上のメリット 
借入金の利息は税務上の費用として計上できるため、税負担の軽減が期待できます。
経営権の維持 
株式発行と異なり、借入による資金調達は経営権の希薄化を招かないため、既存の株主の影響を受けにくいです。

デットファイナンスのデメリット

返済義務 
借入金は返済義務があるため、企業のキャッシュフローに負担をかける可能性があります。
利息負担
借入金には利息が伴うため、利息負担が企業の利益を圧迫することがあります。
財務リスクの増加
借入金が増加すると、企業の財務リスクが高まり、信用格付けの低下や追加の借入が困難になる可能性があります。

デットファイナンスのプロセス

  1. 資金需要の確認
    資金調達の目的や必要な資金額を明確にします。
  2. 借入先の選定
    銀行や金融機関、投資家など、適切な借入先を選定します。
  3. 借入条件の交渉
    金利、返済期間、担保の有無など、借入条件を交渉します。
  4. 契約締結
    借入条件に合意したら、正式な借入契約を締結します。
  5. 資金の受け取り
    借入契約に基づき、資金を受け取ります。
  6. 返済計画の実行
    借入金の返済計画に従い、元本と利息を返済します。

メザニンファイナンス

メザニンファイナンスの特徴

ハイブリッド性
メザニンファイナンスは、デット(借入)とエクイティ(株式)の両方の特徴を持ちます。通常、劣後ローンや転換社債、ワラント債などが含まれます。
リスクとリターンのバランス
メザニンファイナンスは、通常の借入よりもリスクが高いですが、エクイティよりもリスクが低いです。そのため、リターンも中間的な位置にあります。
柔軟性
企業の資本構成や財務状況に応じて、柔軟に利用できる資金調達手法です。

メザニンファイナンスの種類

劣後ローン

劣後ローンは、企業が破綻した場合、他の債権者よりも後回しにされるため、金利が高いローンです。しかし、資本に近い性質を持つため、財務健全性を保ちながら資金調達が可能というメリットがあります。ただし、厳格な審査や事業計画の提出が求められます。

転換社債(Convertible Bonds, CB)

転換社債は、債券でありながら、一定の条件下で発行会社の株式に転換できるという特徴を持つ金融商品です。株価が上昇した場合、投資家は債券を株式に転換することで、株価の上昇による利益を得ることができます。一方、企業は、通常の社債よりも低い金利で資金調達が可能となるため、財務の柔軟性が高まります。

ワラント債(Warrant Bonds)

ワラント債は、将来、株価が上昇する可能性のある企業の株式を購入する権利がついた債券です。この権利のことをワラントと言います。企業は、このワラントを付けることで、より低金利で資金調達できます。投資家にとっては、株価が上昇すれば、大きなリターンが期待できる魅力的な商品です。

メザニンファイナンスのメリット

資本の強化
メザニンファイナンスは、ある一定の用件をみたした場合、エクイティのように扱えるため、自己資本比率を高めることができます。
柔軟な返済条件
通常の借入よりも返済条件が柔軟であり、企業のキャッシュフローに応じた返済が可能です。
経営権の維持
エクイティファイナンスと異なり、経営権の希薄化を防ぐことができます。

メザニンファイナンスのデメリット

高コスト
通常の借入よりも金利が高く設定されるため、資金調達コストが高くなります。
複雑な契約
メザニンファイナンスは、契約条件が複雑であり、専門的な知識が必要です。
リスクの増加
返済順位が低いため、企業の財務リスクが増加する可能性があります。

メザニンファイナンスのプロセス

  1. 資金需要の確認
    資金調達の目的や必要な資金額を明確にします。
  2. 投資家の選定
    メザニンファイナンスを提供する投資家や金融機関を選定します。
  3. 条件交渉
    金利、返済条件、転換条件などの詳細を交渉します。
  4. 契約締結
    合意に基づき、正式な契約を締結します。
  5. 資金の受け取り
    契約に基づき、資金を受け取ります。
  6. 返済計画の実行
    返済計画に従い、元本と利息を返済します。

自己資金

自己資金の特徴

内部留保
過去の利益を蓄積したもので、企業が自由に利用できる資金です。
キャッシュフロー
事業活動から得られる現金収入で、日常の運転資金や投資に利用されます。
資産売却
不要な資産や非中核事業を売却して得られる資金です。

自己資金のメリット

返済義務がない
自己資金は外部からの借入ではないため、返済義務がありません。これにより、企業のキャッシュフローに負担をかけずに資金を利用できます。
コストがかからない
利息や配当などのコストが発生しないため、資金調達コストが低く抑えられます。
経営の自由度が高い
外部の投資家や金融機関の影響を受けずに、自由に資金を利用できるため、経営の自由度が高まります。
財務健全性の向上
自己資金を利用することで、負債比率が低くなり、企業の財務健全性が向上します。

自己資金のデメリット

資金の制約
自己資金には限りがあるため、大規模な投資や急な資金需要に対応できない場合があります。
機会損失
自己資金を利用することで、他の有利な投資機会を逃す可能性があります。
成長の制約
自己資金だけに依存すると、成長のスピードが遅くなる可能性があります。特に急成長を目指す企業にとっては、外部資金の活用が必要となる場合があります。

自己資金の利用方法

内部留保の活用
過去の利益を蓄積した内部留保を利用して、新規事業や設備投資に充てることができます。
キャッシュフローの管理
事業活動から得られるキャッシュフローを効率的に管理し、必要な資金を確保します。例えば、売掛金の回収を早める、在庫を適正に管理するなどの方法があります。
資産の売却
不要な資産や非中核事業を売却して資金を調達します。これにより、資産の効率的な活用が図れます。

自己資金のプロセス

  1. 資金需要の確認
    資金調達の目的や必要な資金額を明確にします。
  2. 内部資金の把握
    内部留保やキャッシュフロー、売却可能な資産など、利用可能な自己資金を把握します。
  3. 資金計画の策定
    自己資金をどのように利用するか、具体的な資金計画を策定します。
  4. 資金の利用
    計画に基づき、自己資金を適切に利用します。
  5. 効果の評価
    自己資金の利用による効果を評価し、必要に応じて改善策を講じます。

アセットベースファイナンス

アセットベースファイナンスの特徴

担保の利用
企業が保有する資産(例えば、売掛金、在庫、設備、不動産など)を担保にして資金を調達します。
資産価値に基づく融資
融資額は担保となる資産の価値に基づいて決定されます。資産の評価が重要な要素となります。

アセットベースファイナンスの種類

売掛金担保融資(Accounts Receivable Financing)

売掛金担保融資は、企業がお客様から商品やサービスを提供した際に発生する売掛金を担保にして、金融機関から資金を借り入れる方法です。つまり、売掛金が回収されるまでの期間、資金を前借りできるようなイメージです。この融資を利用することで、売掛金の回収リスクを軽減し、企業の資金繰りを改善することができます。特に、売掛金の回収期間が長い企業にとっては、キャッシュフローの安定化に役立ちます。

在庫担保融資(Inventory Financing)

在庫担保融資は、企業が保有する商品や原材料などの在庫を担保に、金融機関から資金を借り入れる方法です。季節変動や需要の変化など、事業活動に伴う資金需要の変動に対応するために、必要な資金を柔軟に調達することができます。この融資を利用することで、在庫の保管に掛かる費用を削減し、資金繰りを改善することができます。特に、製造業や小売業など、大量の在庫を抱える企業にとって有効な資金調達手段です。

設備担保融資(Equipment Financing)

設備担保融資は、企業が所有する工場の機械や設備といった固定資産を担保に、金融機関から資金を借り入れる方法です。新しい機械設備の購入や、既存の設備の更新・入れ替えなどに利用されます。この融資を利用することで、企業は必要な設備投資を行うことができ、生産性の向上や事業の拡大を図ることができます。また、設備自体が担保となるため、比較的安定した資金調達手段といえます。

不動産担保融資(Real Estate Financing)

不動産担保融資は、土地や建物といった不動産を担保に、金融機関から資金を借り入れる方法です。一般的に長期的な資金調達に利用され、事業拡大や不動産投資など、大規模な資金が必要な場合に適しています。この融資のメリットは、不動産の価値を最大限に活用して、多額の資金を調達できる点です。ただし、返済が滞った場合は、担保となっている不動産を失うリスクがあるため、慎重な検討が必要です。

アセットベースファイナンスのメリット

迅速な資金調達
資産を担保にすることで、比較的迅速に資金を調達できます。特に売掛金や在庫を担保にする場合、手続きが簡便です。
資金繰りの改善
売掛金や在庫を担保にすることで、キャッシュフローを安定させ、資金繰りを改善します。
柔軟な資金調達
企業の資産状況に応じて、柔軟に資金を調達できます。資産の種類や価値に応じた融資が可能です。
信用力の向上
資産を担保にすることで、金融機関からの信用力が向上し、将来的な資金調達が容易になります。

アセットベースファイナンスのデメリット

担保評価のコスト
資産の評価には専門的な知識とコストがかかります。評価が適切に行われないと、融資額が低くなる可能性があります。
担保の制約
担保に提供した資産は自由に処分できなくなるため、事業運営に制約が生じることがあります。
金利の高さ
担保融資はリスクが高いため、金利が高めに設定されることがあります。特に中小企業の場合、金利負担が大きくなることがあります。

アセットベースファイナンスのプロセス

  1. 資金需要の確認
    資金調達の目的や必要な資金額を明確にします。
  2. 担保資産の評価
    担保に提供する資産の評価を行います。専門の評価機関や金融機関が評価を行います。
  3. 融資条件の交渉
    金利、返済期間、担保条件などの詳細を交渉します。
  4. 契約締結
    合意に基づき、正式な融資契約を締結します。
  5. 資金の受け取り
    契約に基づき、資金を受け取ります。
  6. 返済計画の実行
    返済計画に従い、元本と利息を返済します。

さいごに

M&Aファイナンスは、企業の成長戦略や競争力強化において重要な役割を果たします。エクイティファイナンス、デットファイナンス、メザニンファイナンス、自己資金、アセットベースファイナンスなど、さまざまな資金調達手法が存在し、それぞれにメリットとデメリットがあります。企業は、自社の財務状況や戦略に応じて最適なファイナンス手法を選択し、効果的に資金を調達することが求められます。適切な資金調達は、M&Aの成功と企業の持続的な成長に繋がります。

この記事を書いた人

常陽銀行、日本M&Aセンター、横浜銀行、フロンティアマネジメントにて親族内承継支援、従業員承継支援、M&A支援、IPO支援などに従事し、豊富な実績を持つ。当社では、M&Aありき・親族内承継ありきの支援ではなく、顧客企業の未来(MIRIAI)を共創すべく、オーナー様の意向に寄り添い、最適な事業承継支援を多数リードしている。

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